7月14日の本学会第3回例会で「副教材とカルタとで学び楽しむ『論語』」と題してお話しする機会を頂きました。近年の小学校高学年の国語教科書には『論語』や漢詩など漢文教材が掲載され、声に出して読み、また、昔の人のものの見方や感じ方を知る授業が行われています。吸収力の高い学童期から『論語』や漢詩に触れることは望ましいことです。
もっとも、小学校の国語教科書に載る『論語』はせいぜい5句ほど。漢文独特の口調に慣れ親しむほどの分量ではありません。「父母の年は知らざるべからず」(『論語』里仁篇)、もしこれを何度か朗誦して身につけば、伝統文化の教養とともに古典文法の基礎にもなります。しかし、限られた国語の時間に『論語』ばかりやっていられません。また小学生に『論語』は難しいのでは、という向きもあるでしょう。そこで提案するのが、今回の『論語』副教材と『論語』カルタとを用いた学習です。
この学習の発想には、実は、次のような実体験があります。私が小学5年生の時、担任の先生が二日ほど休まれ、隣のA先生のクラスで「終わりの会」を受けた折のことです。A先生は事前に黒板の端に、「子曰く、巧言令色、鮮し仁と。」(『論語』学而篇)と書いておかれ、「みんなで読んでみましょう。」と斉読し、その後、先生が大体の意味を話して聞かせ、最後にもう一度斉読して終わり、という活動でした。ごくシンプルなもので、時間は10分ほどだったと思います。二日目は、「曽子曰く、吾 日に吾が身を三省す。……習わざるを伝えしか。」(同上)でした。小学生の私にとって、「変な言葉」でも説明を聞けば「何かええこと言うてる」「面白い」、そんな初の『論語』体験でした。放課後、商店街の本屋に行き「おばちゃん、『子曰く』ていう本ありますか。」と小遣いで一冊購入、しかしそれが大人向け(木村英一先生の講談社文庫本)で歯が立たず、お蔵入りとなりました(後々役立ちましたが)。得難い体験をさせてくださったA先生には今も感謝しています。
思い出話が長くなりましたが、授業以外の細切れの10分があれば『論語』のお話しはできますし、小学生にも『論語』は決して難しくありません。それに朗読・暗誦を促すカルタを結び付ければ……、というのが今回の私の提案です。
四天王寺大学 人文社会学部 教授 矢羽野隆男